鈴鹿サーキットには、これまで何度も通ってきました。
F1やSUPER GTの観戦、コースウォーク、レースゲーム――
「鈴鹿は熟知している」と言っていいくらい、コースレイアウトや高低差も頭に入っているつもりでした。
そんな鈴鹿サーキットを、今回は”走る側”として体験することになったのが、鈴鹿シティマラソン(10km)です。
サーキットを実際に走れる特別感もあり、正直なところ、
レース途中までは「今年の10kmの自己ベスト狙えるかな?」という意識もありました。
ところが、いざ走ってみるとその印象は一変します。
熟知していたはずのコースが、知らない顔を見せ、牙を剥く。
自分の足で走る鈴鹿は、今まで見てきた鈴鹿とはまったくの別物でした。
この記事では、鈴鹿シティマラソン(10km)を実際に走って感じた体感や当日の流れ、
そして「なぜ想像以上にきつかったのか」を、正直ベースで振り返ります。
来年以降、参加を検討している方が少しでもイメージしやすくなれば幸いです。
鈴鹿シティマラソンとは
鈴鹿シティマラソンは、F1日本グランプリをはじめ数々の名レースが開催されてきた、鈴鹿サーキットの国際レーシングコースを舞台に行われる市主催の市民マラソン大会です。
市民の健康づくりやスポーツ振興を目的としながらも、世界的サーキットを実際に走れる大会として、他にはない存在感を持っています。
大会は「鈴鹿シティマラソン実行委員会」が主催。
公式サイトでも
「国際レーシングコースを快走できる世界に誇れる最高のステージ」
と表現されているように、普段はマシンだけが走る舞台を、自分の脚で駆け抜けられること自体が大きな魅力です。
種目は10.0km、5.6km、2.0km、バリアフリー1.5kmの4種目構成。
このうち10kmは大会最長距離にあたり、高校生以上を対象とした競技種目として位置づけられています。
定員面でも全体の中核を担う、鈴鹿シティマラソンを象徴するカテゴリーです。
10kmコースは、鈴鹿サーキット国際レーシングコースを使用し、Astemoシケイン付近を起点に2周するレイアウト。
デグナーカーブ、スプーンカーブ、西ストレート、最終コーナーなど、F1中継でおなじみのセクションを次々と通過していきます。
公式のコース紹介では、高低差のあるレイアウトも特徴として明示されており、「高低差約20mの下り坂」や「心臓破りの坂(高低差約35m)」といったポイントが挙げられています。
サーキット特有の広い路面とアップダウンを併せ持つコース設計は、他の市民マラソンとは一線を画す特徴と言えるでしょう。
「鈴鹿は知っている」つもりだった
鈴鹿サーキットは、これまで何度も足を運んできた場所です。
F1やSUPER GTの現地観戦はもちろん、コースウォークに参加したこともあり、レースゲームでも繰り返し走ってきました。
デグナー、スプーン、西ストレート――コーナー名やレイアウトも頭に入っていて、高低差があることも理解しているつもりでした。
少なくとも、「初めて走る場所」という感覚はありません。
コース図を見れば、どこが上りでどこが下りかも思い浮かびますし、観戦時に歩いた経験から「ここは地味にきつそうだな」と感じたポイントもあります。
だからこそ、スタート前の段階では
「鈴鹿は知っている」
「サーキットを走るとはいえ、10kmなら対応できるだろう」
そんな意識がどこかにありました。
実際、走り出してしばらくの間は見慣れた景色の中を進んでいる感覚もあり、”知っている鈴鹿”をなぞるような走りになっていたと思います。
ただ、その感覚でスタートしたレースは、ゴール後にはこれまでの観戦とはまったく違うものになっていました。
当日の流れ
スタート前からゴールまで、当日の流れを時系列で振り返ります。
観戦で訪れる鈴鹿サーキットとは、同じ場所でも空気感はまったく違っていました。
スタート前
前日移動もあったので、当日は比較的ゆっくりめに会場入りします。
受付の必要がなかったのもゆっくり会場入りできた理由の一つです。
事前に郵送されたチケットを提示して入場し、荷物は最小限にしていたため、預けずにV1席に置くことにしました。
サーキット内にはすでに多くのランナーが集まっており、
普段はマシンや観客で埋まる場所が、ランニングウェア姿の人たちであふれている光景はなかなか新鮮です。
スタート前の雰囲気は、市民マラソンらしく和やか。
一方で、10kmという距離もあってか、周囲には走り慣れていそうな参加者も多く、どこか引き締まった空気も感じました。
鈴鹿シティマラソンでは、スタートの30分以上前からコースに降りるよう案内されます。
他の大会と比べてもやや早めで、「いよいよ走る側になる」という実感が、この段階から強まっていきました。
前半:順調なスタート
スタート直後は参加者が多く、しばらくは歩くようなペースでの出発になります。
流れに乗ってからは徐々に走れるようになり、走り始めの感覚は悪くありませんでした。
今回の10kmは、メインストレートのコントロールラインを起点に逆回りでスタートし、最終コーナーを駆け上がって東コースへ合流するレイアウトです。
いきなり登りから始まる構成でしたが、この時点では大きな違和感はなく、見慣れたコースを実際に自分の足で進んでいく感覚に、どこか不思議な高揚感もありました。
このあたりまではペースにも余裕があり、
「今日はいけるかもしれない」
そんな手応えを感じながら走っていたと思います。
中盤〜後半:予想外のきつさ
1周目を終えて2周目に入るころまでは、大きな問題なく走れていたと思います。
2周目に入る手前くらいから雨が降り始めたこともあり、このあたりから距離を重ねる毎に少しずつ違和感が出始めます。
S字から逆バンクの思った以上の起伏に呼吸や脚の重さが気になりはじめ、序盤の余裕は次第に薄れていきました。
また、靴の中まで濡れ始めたことで、走りの感覚にも微妙な変化を感じるようになりました。
見覚えのあるはずのコースなのに、思ったよりも長く感じる。
ペースを保とうとしても、身体が思うようについてこない。
このあたりから、「想定していた走り」と「実際の感覚」のズレを、はっきりと意識するようになります。
ゴール
最終コーナーを抜け、ピットレーンへと入って迎えたゴール。
走り切った達成感と高揚感からか、さっきまでの体の重さとは裏腹に、「まだ走れるかも?」というような感覚に包まれます。
ゴール後はパドック側へと誘導され、トンネルを通ってGPスクエアへ。
この間にパドックでいただいたカフェオレは体が温まってありがたかったです。
そのまま足を止めずにGPスクエアから荷物のところへ。
汗と雨で濡れたシャツを着替え、防寒着に身を包んで一息ついたその瞬間、はっきりとした疲労感を感じました。
「10kmを走った」という実感が、時間差で身体に押し寄せてきます。
その後、少しブースを見てからサーキットを後にしました。
「見る」と「走る」は全く違った
今回の鈴鹿シティマラソンで強く感じたのは、
「これは、自分がよく知っている鈴鹿とは全くの別物だ」
という、観戦とは明らかに違う印象でした。
これまで何度も観戦してきた鈴鹿サーキットでも、「見る」のと「走る」のとでは受け取る情報も負荷もまったく違うものでした。
アップダウンが連続し、回復する余地がない
鈴鹿サーキットに高低差があること自体は、事前に分かっていました。
観戦時にも「ここは登りだな」「この先は下りだな」と把握していたつもりです。
ただ、実際に走ってみると、そのアップダウンが想像以上に”連続”していることに気づかされます。
東コースは、ターン2以降の連続したアップダウンがじわじわと脚力と体力を奪っていきます。
登りが終わっても、すぐに楽になるわけではない。
下りに入っても、脚を休める余裕はほとんどありません。
特に2周目の東コースでの負荷と消耗は大きく、NIPPOコーナーの登りを上り切った時点で、
「今日は自己ベストは狙えないな。せめて65分を守り切ろう。」
と、はっきりと意識を切り替えることになりました。
知っているはずの距離感が、走ると狂う
観戦やコースウォークで何度も歩いたことのある場所でも、実際に走ると距離の感じ方はまったく違います。
「ここを抜ければ楽になるはず」
「この先は下りだったはず」
そう思っていたポイントが、走ると想像以上に長く感じられる。
特に2周目では、S字から逆バンクにかけての起伏が思った以上に激しく、ペースを上げたくても上げられないもどかしさがありました。
下りでも身体を休められないコース特性
登りがきついのは、ある程度想定していました。
問題は、そのあとに続く下りです。
スプーン立ち上がりから西ストレート入口にかけての下りは、勢いよく脚を回せる一方で、身体を休められる下りではありません。
結果として、下りで回復するどころか、「下りでも消耗している」感覚が残りました。
登りがあれば下りで取り返せる――
そうしたイメージを持っていると、鈴鹿では思った以上に苦しくなります。
天候と路面がじわじわと体力を削る
当日は、スタート前こそ晴れ間が差す時間帯もありましたが、2周目に入る直前から雨が降り始めました。
雨自体は極端に冷えるものではありませんでしたが、路面が濡れたことで、無意識のうちに脚や体幹に余計な力が入っていたように思います。
また、靴が濡れて足先が徐々に冷えていくような感覚もペースに影響したかもしれません。
ゴール後に温かいカフェオレを飲んで、
「思っていた以上に身体が冷えていたのかもしれない」
と感じたのも、印象に残っています。
走ってわかったこと
鈴鹿シティマラソンを走ってみて、いちばん強く残ったのは
「知っているつもり」と「実際に走れる」はまったく別物だという感覚でした。
コースレイアウトや高低差を把握していても、それを自分の脚で10km走り切るとなると、話は変わってきます。
登りがあることは分かっていても、その登りがどのタイミングで、どれくらい連続してやってくるのかまでは、走らなければ分かりません。
特に印象的だったのは、
「登りがきついだけでなく、下りでも思ったほど休めない」
という点でした。
登りがあれば下りで回復できる、というイメージを持っていると、鈴鹿のコースでは想像以上に消耗します。
また、2周構成という点も、体感に大きく影響します。
1周目は余裕を持って走れていても、2周目に入った瞬間に同じコースがまったく違って見える。
実際に走ってみて初めて、
「ここからが本番だったのか」
と気づかされました。
それでも、走り終えたあとに残った感覚は、「つらかった」よりも「走ってよかった」というものでした。
観戦してきた鈴鹿サーキットを、自分の足で一周、二周と進んだ経験は、これまでの”見る鈴鹿”とはまったく違う記憶として残ります。
鈴鹿シティマラソンは、ただサーキットを走れるイベントではなく、鈴鹿というコースそのものを身体で理解する機会なのだと思います。
まとめ
鈴鹿シティマラソンは、「鈴鹿サーキットを走れる」という一点だけでも、十分に特別な大会です。
しかし実際に走ってみると、その特別感は単なる記念的なものではなく、コースの厳しさや奥深さとセットになっていることを強く感じました。
観戦やコースウォーク、レースゲームを通して「鈴鹿は知っている」と思っていた自分にとっても、走ることで見えてきた景色はまったく別物でした。
特に、アップダウンの連続や下りでも休めないコース特性は、実際に脚を使って初めて理解できる部分だったと思います。
それでも、走り終えたあとに残ったのは後悔ではなく、「一度走ってみてよかった」という素直な気持ちでした。
見るだけでは分からなかった鈴鹿サーキットの表情を、自分の身体で確かめられたこと自体が、大きな収穫です。
鈴鹿シティマラソンは、タイムを狙う大会でもあり、サーキットを味わう大会でもあります。
どちらを目的にして参加するにせよ、”走る側の鈴鹿”を体験できる機会として、一度は参加してみる価値のある大会だと感じました。
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